「VSデストロイア」から5年、新生ゴジラと化したJrの行方は杳として知れなかった。
5年の間にゴジラの脅威は少しづつ人々の記憶から薄れ、国連G対策センターつくば本部も大
幅にその規模を縮小された。G―フォースも人員を大幅に削減され、彼らは自衛隊などの元の古
巣へと戻されていった。その頃日本では、「ゴジラ細胞(セル)」の、放射能を吸収し、活動エネルギーに変える性質を利用
した「都心型原子力発電所」の建設が盛んに推進されていた。
冷却装置や放射能隔壁の代りに「Gセル」から成る「生きた構造材」を使用することにより、原発は
従来のものとは比較にならないほど小型化、安全化することが可能になったのである。核のゴミす
ら簡単に無害化してしまう「Gセル」によって、日本のエネルギー政策は大きく転換した。
(ちなみに、この技術の基礎は、国連G対策本部研究室によって築かれたものである)その結果、低コストで大量の電気エネルギーを賄えるようになった日本は、「エネルギー大国」へと
変貌を遂げつつあった。国内の必要量を超えるエネルギーは、新素材等を利用した革新的送電技
術によって近隣諸国へも「輸出」が可能になっていた。日本が輸出した電気エネルギーは、ロシア
のシベリア開発に、中国の新都市開発に、そして省資源国に無くてはならないものとなりつつあった。
(輸出した見かえりは、もちろん、ウラン鉱石をはじめとする稀少資源であった)
そして、日本は長い景気低迷期を脱し、以前にもまして「経済大国」の名を欲しいままにすることが
できるようになっていた。だが、日本の躍進を快く思わない者たちもいた。石油を主としたエネルギー産業を支配することによ
り事実上世界を支配してきた「メジャー」巨大商社たちであった。
彼らの支配力は、産油国のみならず、「世界の警察官」たる超大国の政府にも深く及んでおり、彼ら
は「極東の小国」が「アジアの盟主」となり強大な力を持つことを非常に危惧していた。かの国の対日政策が厳しさを増し、「内政干渉ではないか」という論調が各マスコミを覆った。
時を同じくして、横須賀、嘉手納、そして岩国や厚木、横田という街に外国人が増え、住民との深刻
なトラブルも増えつつあった。
そんなある日、佐世保を飛び立った哨戒機が南沙諸島付近でゴジラらしき巨大生物の影を発見した。
そして、その影は沖縄方面へ向けて進んでいた。
しかし、哨戒機は、第7艦隊所属の戦闘機群の威嚇を受け、途中で巨大生物をロストしてしまったの
である。
その事件の少し前、横須賀から空母キティホークをはじめとする機動艦隊があわただしく港を離れて
いった。もちろん、日本政府には何も事前報告はなかった。ニュース番組は「演習」説や「潜水艦が関
与した紛争」説などを報じていたが真相はわからないままであった。ついに新生ゴジラは、沖縄沖にその姿を顕わした。「ゴジラ」として成長したJrは、以前のゴジラ
と寸分違わぬ姿となっていた。佐世保を出撃した自衛艦隊第2護衛群八八艦隊は、ゴジラと遭遇する前に、沖縄沖に展開した第7艦
隊と遭遇した。彼らはゴジラの接近に備えて待ち構えていたのである。
先制攻撃の叶わぬ自衛艦隊をよそに、第7艦隊はゴジラに対して攻撃を開始した。
「OKINAWA基地には決して近づけない」そういう声明が米政府から出された。激しい攻撃を受けるゴ
ジラ。しかしゴジラは、巡洋艦ヴィンセンス、駆逐艦オブライエン、そして攻撃ヘリ群に僅かな損傷を与
えただけで、まともな反撃をせず再び海中に姿を消した。しかし依然第7艦隊はオン・ステージのままであった。それどころか、隊列を組み関東地方へ向かって
いたのである。
海自の対潜哨戒機は、海中を移動する巨大生物とそれを追う攻撃型原潜を発見した。巨大生物は原
潜部隊に追いたてられるように東を目指していた。「ゴジラはまだ戦闘が可能なほどエネルギーを蓄えてはいない。だから、南沙諸島近海の海底資源か
らエネルギーを得ようとしていたのだ。それを米軍が刺激してしまったのではないか?」
しかし、アメリカは「安全保障上の問題」を盾にその問いに答えようとはしなかった。
「あの原潜は、ゴジラを関東へ誘導しているのではないのか?」
この問いに対しては、米政府は強い口調で否定した。
それどころか、米政府は安保協定に基づき、「日本を守るため」軍を展開しているという公式声明を発
表した。
日本政府はゴジラの接近をまだ「侵略」とは断定していなかった。国会はゴジラと米軍の問題で紛糾し
た。
ゴジラは相模湾を浦賀水道へ向かっていた。日本政府はゴジラの上陸に備え、陸自東部方面隊を東京
湾岸一帯へ展開し、同時に民間人には緊急避難命令が発令された。海自の第2護衛艦群はゴジラを追って相模湾へ入った。これを受けて横須賀に待機していた第1護衛艦
群が出動し、浦賀水道へと向かった。
同じ頃、沖縄米軍基地から飛び立った海兵師団が横田へと到着していた。彼らは在日米軍及びその家族
らの安全を確保するために派遣された、とされていた。在日米軍司令部を守るため、横須賀港に残されていた巡洋艦バンカーヒルをはじめとする数隻の戦艦が
突如、第1護衛艦群の行動を邪魔するような形で浦賀水道に展開し、同時に米軍太平洋艦隊に所属する
原潜部隊も、海自潜水艦の前に立ちふさがった。
在日米軍司令部から日本政府に寄せられたコメントは「通信が混乱している」というものだった。
外務省から米本国へ強い抗議が行われたが、状況は好転しはしなかった。第2護衛艦群は、ゴジラの進行コースを変えるべく威嚇を繰り返したが、米艦隊の攻撃を受けるゴジラは、
ついに浦賀水道を抜け、東京湾内にその姿を顕わした。
米戦艦と原潜によって行動がままならない第1護衛艦群にゴジラの東京接近を防ぐ手立てはなかった。東京湾海中に一旦没したゴジラは、水中から米戦艦群に放射能火炎を浴びせ掛けた。たちまち爆発炎上
する米戦艦。難を逃れた戦艦は放射能火炎を避けるように航行し、海をかきまわした。
この影響を受け、ソナーが効かなくなった米原潜を襲うゴジラ。たちまち2隻が艦体を破壊されその原子炉
はゴジラのエネルギーとなった。
パワーを得たゴジラは米戦艦群に対して、更に攻撃を開始した。
東京近郊に4基設けられた「都心型原子力発電施設」。ゴジラ接近の混乱に乗じて、海兵隊の一団がその
施設に侵入した。
ここには、Gセル構造材が貯蔵されている建物があった。Gセル構造材は「劣化」を防ぐ目的で一定サイク
ルで交換されるようになっていたのである。
彼らはこの構造材を奪取し、横須賀へ向かった。未公開技術であったGセル構造材の秘密を狙ったメジャ
ーが米政府に働きかけ、この陰謀が行われたのである。
海兵隊はボートで横須賀港からゴジラを避けながら、空母キティホークへと乗り込んだ。
旗艦ブルーリッジをはじめとする、ゴジラの攻撃から逃れることの出来た第7艦隊戦艦群は、空母を守るよ
うに湾外へと航行を始めた。
しかし、ゴジラは横田を飛び立った戦闘機群、そしてキティホークから出撃した攻撃ヘリ群によって、陸地へ
と誘導されていった。「船の科学館」付近から陸地へ上陸したゴジラは、フジテレビ社屋やレインボーブリッジを破壊しつつ浜松町
から新橋を通り、銀座にその姿を顕わした。
歌舞伎座、ソニービル、有楽町マリオンそして和光ビルが次々と倒されていった。
応戦する自衛隊。しかしゴジラの強大な力の前にはどうすることもできなかった。米戦闘機群の攻撃が、ゴジラを霞ヶ関方面へと進ませた。大蔵省をはじめとする官庁舎、そして国会議事堂
が崩れ去った。首都・東京の機能は壊滅しかけていた。
「経済大国・日本」の国力を削ぐために米政府とメジャーとが画策した陰謀が実現しつつあった。
空母キティホークの中では、Gセル構造材の予備的実験が早速行われていた。放射能吸収能力を測定する
ため、特別に誂えられた実験室の中でプルトニウムが使用された。。
だが、ここで技術者たちの予想を裏切る事態が起こった。一定量以上の放射能を吸収すると「劣化」すると
考えられていたGセルが、放射能の被爆量に比例してどんどん「活性化」していったのである。
Gセル構造材は「劣化」ではなく「活性化」を防ぐために一定サイクルで交換されていたのだ。
しかし、技術者たちがその事実に気づいたときには、爆発的成長を促すに充分な放射能がGセルに与えられ
ていた。
Gセルは3体の生物に分化した。それらは、更なる核エネルギーを求めて、艦内を駆け巡った。
水兵たちの魂消る声が響き渡った。1体がキティホークの飛行甲板を引き裂き、その姿を顕わした。ゴジラに似た姿をしたそれは、しかし、ゴジラ
よりも醜悪な形相をし、その鉤爪や牙からは兇暴さが見て取れた。
やがて、残り2体も艦底や船体を引き裂き、海中へ脱した。弾薬庫に炎が回ったキティホークは、爆発炎上し
轟沈した。
怪物は、原潜部隊を襲い、その核エネルギーを次々と取り込んでいった。
海上艦も次々と怪物達に襲われていった。それらは艦から艦へ飛び移るだけの跳躍力をも備えていた。それらはゴジラよりも俊敏だった。
旗艦ブルーリッジの艦長は最後に「Godzillas from Hell!」の言葉を残し、艦とともに海に沈んだ。
第7艦隊は原潜数隻を残すのみとなった。
核エネルギーを取り込んだ怪物たちは身長30メートルほどの「ヘルゴジラ」となった。原潜は、外洋ではなく横須賀へ向かって航行した。横須賀港から在日米軍司令部へ逃げ込むためである。
しかし、原潜は横須賀港へ入港する前にヘルゴジラ達に捕食された。そのまま、司令部へ上陸し建物を破壊するヘルゴジラ。
ゴジラ攻撃を止め、司令部を守るために飛来した米戦闘ヘリ群は、建物の破壊を恐れて攻撃をためらった。それをヘルゴジラ達の放射能火球が襲った。次々と墜落し爆発炎上するヘリ。たちまち、司令部全体が炎に包まれた。在日米軍司令部はその機能を完全に失った。ヘルゴジラ達は、再び海へ戻り、東京を目指した。彼らは核エネルギーを満載した「獲物」を見つけたのだ。
赤坂近辺を蹂躙したゴジラは、品川方面へ移動しつつあった。
その背後が猛烈に光ったと思うまもなく、ゴジラの巨体が前方につんのめった。倒れこんだゴジラを更にビームの光条が襲った。
やがて、それは黒煙の間に姿を現した。水面下で進められていた那須への首都移転計画の中で、新首都防衛の要として密かに建造され、三沢で実験が行われていたスーパーX型首都防衛飛行戦闘艇「轟天」である。
スーパーXから、メカゴジラ、モゲラに到る過去の対G兵器の実戦データを取り入れて設計・建造された「轟天」を、対ゴジラ戦の切り札とすべく政府が実戦投入したのである。放射能火炎で応戦するゴジラ。だが、メカゴジラを上回るスーパーダイヤモンドコーティングを施された「轟天」は、そのエネルギーを収束・増幅し、プラズマ・グレネイドとしてゴジラへ撃ち返す。
更に、威力を増したメガバスターがゴジラにダメージを与えていった。
「轟天」を援護し、陸自の90式、74式戦車、MLRSが、そして空自のFー2がゴジラに対し、攻撃を再開した。
それらの火力はゴジラを海へと押し戻しつつあった。だが、そこに羽田飛行場から上陸したヘルゴジラ達が現われた。
次々と「轟天」、そしてF−2へ向けて放射能火球を浴びせ掛けるヘルゴジラ。
3方向から襲いかかる火球を避けきれず、F−2数機が撃墜され、「轟天」もバランスを崩し、ビル壁に接触した。だが、「轟天」はかろうじて墜落を免れ、羽田に緊急着陸した。
ヘルゴジラ達は「轟天」や自衛隊機を、獲物を横取りする敵と見たのだ。次にヘルゴジラ達はゴジラへ襲いかかった。すばやい動きでゴジラを翻弄するヘルゴジラ。
4体の怪獣によって、陸自の戦闘車両は蹴散らされ、街は破壊尽くされていった。
ヘルゴジラ達の吐く放射能火球を片目に受け、苦しむゴジラ。その隙に鉤爪と牙がゴジラの巨体を切り裂いて
いく。
ゴジラの身の丈の半分以下しかないヘルゴジラは、しかしその俊敏さでゴジラよりも優勢だった。
満身創痍となったゴジラの放射能火炎が、ヘルゴジラを外し、虚しくビル群を破壊していった。
ついに、ゴジラはその場に轟音と地響きをたてて崩れ落ちた。やがて街は静まり返った。ヘルゴジラの一頭が止めを刺そうとゴジラの咽喉笛に向けて大きく顎を開いた。
その刹那、ゴジラの眼が見開かれたかと思うと、背ビレが蒼白く発光し、ヘルゴジラに向けて放射能火炎が放
たれた。
続けざまにゴジラの尻尾が一閃し、ヘルゴジラを地面に叩きつけた。
ゴジラは、地面にのた打ち回るヘルゴジラを銜えあげ立ち上がった。ゴジラの強靭な顎がヘルゴジラの体を噛
み砕く。背ビレを発光させ続け、ヘルゴジラのエネルギーを自分のものにするゴジラ、その姿は怒れる巨神そ
のものだった。在日米軍司令部を壊滅させられた米政府は、日本政府に対して「怪獣達への核攻撃」を通告してきた。すでに
核ミサイルを搭載した第3艦隊所属の攻撃型原潜が太平洋を南下しつつあった。
日本政府は米国に激しく抗議した。だが、米国はその抗議を一蹴した。
内閣に設けられたゴジラ対策本部は有効な対策を講じることが出来ず、困窮した。そこへ、羽田に緊急着陸し修理を行っていた「轟天」からの連絡が入った。応急修理が完了し、ミッションを再開できるようになったのだ。
いまや、日本には「轟天」が最後の希望だった。怒りとヘルゴジラから得たエネルギーとで、ゴジラは完全に復活した。ヘルゴジラを放射能火炎が襲う。ヘルゴジラ2頭は逃げ惑った。
火炎を避け、海へと逃げ込んだ2頭は絡み合うように湾内に沈んでいった。泡立つ海面めがけてさらに火炎を吐きつけるゴジラ。水蒸気爆発で海が吹きあがった。ゴジラとヘルゴジラを陸から排除しないと、核ミサイルが東京を襲う可能性がある。ここにきて内閣総理大臣は「轟天」へ極秘装備の使用許可を下した。
ゴジラもヘルゴジラを追って海へと足を踏み入れた。そこに海中から火球がゴジラを襲った。
再びヘルゴジラが海中からその姿を現した。
だが、ヘルゴジラはその姿を大きく変化させていた。生命の危機から身を守るため、2頭の体は1体に交じり合っていたのだ。双頭の悪鬼となったヘルゴジラは体長もゴジラに迫るものとなっていた。
ゴジラとヘルゴジラ、2頭の巨体が再び街を揺るがした。
飛来した「轟天」のパイロットもヘルゴジラの姿に眼を見張った。ゴジラを上回る獰猛さが、その異形の体から感じられた。ゴジラ対策本部では、ヘルゴジラの行動原理が「核エネルギー」を求めるものだということが、その移動ルート等の調査で確認されていた。
その結果、仮にヘルゴジラがゴジラを葬り去ったとしても、その後、国内百数十ヶ所に設置された「都心型原子力発電施設」をヘルゴジラが次々と襲う可能性が高いことが判明した。ヘルゴ
ラの行動はゴジラよりも更に危険なのだ。
いま、発電施設を破壊されることは、日本の命脈を絶たれるに等しい。
ゴジラ対策本部は「まずヘルゴジラ討つべし」との決定を下した。「轟天」は、内閣総理大臣の命令を受け取ると、すぐさま高々度へ上昇した。同時刻、東京近郊の4基の「都心型原子力発電施設」が稼動を始めた。
発電量が一定の値を超えたとき、各施設の一部からビームガン状の設備が空に向かって突き出した。それは微調整を繰り返し、先端を「轟天」へ合わせた。
「調整完了」の合図とともに「轟天」の艇底部からミラーが展開した。
「エネルギー送出」の合図と同時に各施設から強力なマイクロウェーブが射出された。艇底部ミラーがそのマイクロウェーブを収束し、「轟天」のエネルギーチェンバーへ取り込んだ。
「轟天」の先端部に内蔵された砲門が口を開く。
これこそ、発電施設から得られる膨大な電気エネルギーを利用した「轟天」の必殺兵器「轟天砲」である。
いまや日本各地に設備されている「都心型原子力発電施設」をそのまま国防兵器として転用できる「轟天砲」構想は、「米国の庇護無き国防」を想定して、エネルギー政策とともに密かに推進されていたのである。瓦礫の山と化した街でゴジラとヘルゴジラの戦いは続いていた。上空からヘルゴジラを狙う「轟天」だったが、2体の怪獣の動きの激しさに「轟天砲」をなかなかロックオンできない。
刻々と核ミサイル発射の危険が迫っていた。ゴジラの放射能火炎がヘルゴジラを捉えた。火炎の勢いにたじろぐヘルゴジラ。「轟天」の武器管制官はこの千載一遇のチャンスを逃さなかった。「轟天砲」の光条がヘルゴジラへ向けて放たれた。
白い輝きがヘルゴジラの半身を地面ごと焼き尽くした。爆風と光が2体の怪獣を包んだ。ゴジラ対策本部の面々は真っ白になったTVモニターを凝視した。
やがて、ホワイトアウトしたモニターが徐々に映像を映し出した。そこには、悠然と構えたゴジラと、残った片方の頭で激しい叫び声をあげ「轟天砲」が穿った窪みの中でのた打ち回るヘルゴジラの姿があった。ヘルゴジラは残った腕を窪みの淵にかけ、ゴジラ目指して這い上がろうとした。
ゴジラは雄叫びをあげると渾身の力を込めて放射能火炎をヘルゴジラに噴きつけた。断末魔の叫びとともにヘルゴジラの身体が燃え上がった。やがて、その炎はヘルゴジラを細胞の一片に至るまで燃やし去った。
ヘルゴジラが燃え尽きるのをじっと眺めていたゴジラは再び雄叫びをあげた。ゴジラ対策本部は「轟天」をそのまま上空に待機させた。砲身の冷却を待って、ゴジラを攻撃させるためである。まだゴジラが残っている以上、核攻撃の危機は去ってはいないのだ。
だが、そこで予期せぬ事が起きた。ヘルゴジラの最後を見届けたゴジラは、ゆっくりと海へと戻っていったのである。
敵を倒した満足感からか、戦いでエネルギーを消耗してしまったのか、それとも元々米軍に追われなければ日本に上陸するつもりなどなかったのか、それは人間には解からない事だった。やがて、「轟天砲」の再稼動が可能になったとき、ゴジラは海中に去ってしまっていた。
海自の潜水艦が領海ぎりぎりまでゴジラを追跡したが、方向を変えることなくゴジラは太平洋の彼方へと消えていった。
米原潜もゴジラを追跡したが、潜航不能深度の闇に追跡をあきらめざるを得なかった。日本への核攻撃の大義名分を失った米政府は、やむなく原潜に対し攻撃中止命令を出した。
のちに米国大統領は第7艦隊と在日米軍司令部を失った責任をとって職を追われ、米政府は軍編成、そして世界戦略を大きく変換しなければならない必要に迫られた。
さらに米国は国連において、この事件の釈明を余儀なくされ、日本への多大な賠償を義務づけられたのである。日本政府は、那須への首都移転計画に先んじて各省庁の資料等をデータ化し、那須御用邸近辺に建物を設け保管していた。霞ヶ関の官庁街は破壊されたものの、再建への道は残されていた。
かくして、日本は再生の道を歩み出し、新しい世界秩序もまた、創られようとしていた。
太平洋の彼方、人の姿などまったく無い月夜の海にゴジラの咆哮が響いた。
「ゴジラ2001」終わり
98.05.11 祝 二十郎
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